Strategy.Inc(MSTR)ビューティーコンテスト ~ ビットコインに対するプレミアムの真価とは?
MPI Stylus Proシステムは通常、大手マルチストラテジー・ヘッジファンドがトレーダーの損益を精査するために使用している。今回はそのツールを用いて、ビットコインの最大保有企業の株価を日次ベースでX線解析した。
米国NASDAQ市場に上場するIT企業「Strategy Inc.(ティッカー:MSTR)」は、もはや単なるソフトウェア関連銘柄ではありません。現在では、ビットコインを保有する上場企業として最大規模を誇っています。バランスシート上には60万BTC超が計上されており、その株価は実質的に暗号資産へのレバレッジをかけたベットとなっています。
しかし、あらゆるトレーディング戦略の根幹には、次のような問いがあります ──
MSTRを通じたビットコイン投資、あなたはいくら“上乗せ”しているのか?
この「ビットコインに対するプレミアム」こそが、市場におけるリスク、資金調達余力、そして投資家心理の圧力計といえます。
ケインズ流・美人コンテスト
プレミアムの算出方法は、じつのところ曖昧です。MSTRの株式価値を保有するビットコインそのものと比較する投資家もいれば、まず80億ドルのゼロクーポン転換社債を差し引いて評価する投資家もいます。エンロン事件を見抜いた空売り投資家ジム・チェイノスは、最近になって「MSTRはNAV(純資産価値)の約1.9倍で取引されている」と述べています。ここでの彼のNAVとは、「現物ビットコインの時価から負債を差し引いたもの」です。
もっとも、「正しい」プレミアムの中には、流動性の価値、レバレッジ、オプション性、そして、Strategy Inc.の元CEOであり、ビットコイン戦略の立役者であるマイケル・セイラーの派手な演出力も織り込まれています。ケインズ風に言えば、勝者とは「もっとも美しい」候補ではなく、「みんなが勝つと思っている」候補なのです。
MPI Stylusで群衆心理を逆算
私たちは、MSTRの日次リターンデータをMPI Stylus Proに投入し、3つのライブファクターを用いてモデル化しました。
ファクター | なぜそれが重要か |
---|---|
ビットコイン価格 | コア資産のエクスポージャー |
Nasdaq‑100 (QQQ) | 残存するソフトウェア事業ベータ |
3ヶ月物 T-Bill | 現金+隠れたレバレッジ |
Stylusのダイナミックな機械学習エンジン(本来はマルチストラテジー・ヘッジファンドがトレーダーの損益を精査するために使用しているもの)は、ローリング回帰よりもはるかに迅速にベータを適応させ、市場のコンセンサスの変化を日々追跡することを可能にします。今回は、この数理モデルを日次の株価に適用しています。
以下のチャート(Stylusで作成)は、MSTRにおけるレバレッジ、ソフトウェア事業の価値、そしてビットコインへのエクスポージャーに関する市場コンセンサスの変化を示しています。

会話のきっかけとしても絶好の事例です。2020年初頭には主にソフトウェア企業だったMSTR(青)が、2020年8月には初めてビットコインを購入(緑)、さらに2020年12月には初のレバレッジイベント(6億5千万ドルの転換社債)を実施し、そして現在では、ごくわずかなテックベータしか持たない、軽くレバレッジのかかったビットコイン連動銘柄となっています。これらすべての変遷が、価格データだけから抽出されており──10-Q(四半期報告書)は一切不要です。
もしこのチャートを本当に壁に飾りたい方、あるいはTシャツにプリントしたいという方がいらっしゃれば──マイルストーン付きの特別バージョンもご用意しています。ビットコイン購入(青)、社債発行(黒)、担保付債券の償還(赤)といった節目がラベル表示されています。

裏紙で弾くプレミアム試算
2024年から2025年にかけて、MSTRの株価が、ビットコインとソフトウェア事業のベータを組み合わせた「理論的な本質価値(インストリンジック・バリュー)」を上回って推移している様子をスナップショットで示しています。このモデルが示唆する本質価値に対するプレミアムは変動していますが、ビットコイン単体に対するプレミアムと比べると一貫して小さく、累積リターンベースで見るとおよそ半分程度にとどまっています。

以下のチャートの最終列に示されているとおり、36か月の保有期間において、
- MSTRのリターンは1,319%
- ビットコインのリターンは388%
- レバレッジをかけたビットコイン・ポートフォリオ(Stylusによる推定、取引コストおよび摩擦なし)のリターンは795%
- ビットコインに対するプレミアムは +931パーセンテージポイント
- Stylusが示す本質的リターンに対するプレミアムは +523パーセンテージポイント

本質的リターン = ビットコインのベータ + Nasdaqのベータ(Stylus推定のベータ)
プレミアム = MSTRのリターン − 本質的リターン
プレミアムは、インストリンシック・ベータ・ポートフォリオを使ってヘッジを維持することで、日次ベースで算出することが可能です。下のチャートは、過去12か月間の日次プレミアムの推移を示しています。

重要な示唆:
- 2024年8月上旬:株価がファクターNAVを下回って推移(=プレミアムがマイナス)
- 2024年11月の急騰:30億ドルのゼロクーポン転換社債発行を受け、プレミアムが一時+65%を超える水準に到達。
- 2025年第2四半期:プレミアムは40~55%のレンジで推移していたが、7月下旬には再び20%台後半へと下落。
我々のモデルで算出されたプレミアムは、いかなる時点においても90%を超えることはありませんでした。これはチェイノス氏の見出しにある数値とは異なります。
まとめ
- ビットコイン・プレミアムは「おまけ」ではない。市場参加者がファンディング・リスクを測る生命線である
- トレーダーの数だけ、プレミアムの解釈もある(「プレミアム」は単数形ではない──デスクごとに計算方法(レシピ)は違う)
- Stylusが示すのは、市場コンセンサスに基づく“プレミアム”。トレードする人も、ヘッジする人も、ただ眺めて楽しむ人にも必須の指標だ
MPIについて

Markov Processes International Inc. (MPI) は、グローバル・インベストメントおよびウェルスマネジ業界への投資調査、分析、および報告のためのソリューションの大手プロバイダーです。MPI は、年金および大学基金、ソブリンウェルスファンド、グローバルウェルスマネジメント会社、機関コンサルタント、規制当局、投資アドバイザー、資産運用会社など、200 以上のクライアントと連携しています。透明性、客観性、効率性の原則に根ざし、ファンド分析、リスク管理、資産配分、レポートの分野で皆様のお役に立てるツールを提供しています。
分析方法
分析は、MPI の スタイラス プラットフォームを使用して行いました。MPI スタイラス・ソリューションは、市場で入手可能な最先端の投資調査、分析、レポート作成テクノロジーの 1 つです。何百人もの機関投資家、コンサルタント、資産運用会社、政府規制当局、退職年金 アドバイザーが、より賢明な投資判断を行うために使用しています。
ディスクレーマー
MPIはパフォーマンスベースの分析を行っており、公開されているファンド情報以外の投資戦略のクオリティあるいはメリットに関してコメントは行いません。また当該ファンドの実際の投資戦略、ポジションあるいは保有情報を知ることを要求したり示唆するものではありません。この分析は、ファンドのリターンのみを使っており、実際の保有情報は反映しておりません。あらゆる定量分析に固有の分析と実際の保有、また/あるいはファンドによる投資決定との乖離が予想されます。本レポートは、MPIが信頼できると判断した情報源から入手した情報をもとに作成しておりますが、当該情報の正確性を保証するものではありません。情報提供を目的としたものであり、本ファンドの勧誘のために作成されたものではありません。