ポートフォリオにおける暗号資産:本当に必要な「メラトニン」の量はどれくらい?


リターンベース分析を用いて1,500本超の投資信託・ETFに内在するビットコイン・エクスポージャーを可視化し、暗号資産のボラティリティと心理的コストを定量的にどう捉えるかを考える。

ここ数か月は、暗号資産投資家にとって厳しい局面が続いています。10月初旬の高値以降、ビットコイン(BTC)は20〜30%を超える変動を何度も繰り返し、1日あたり5億〜20億ドル規模の大規模な清算が発生する日も見られました。また、ETFへの資金流入についても、1か月分が事実上帳消しになるような状況が生じています。

2025年11月21日、ビットコインは約8万1,000ドルまで下落し、暗号資産市場全体の時価総額はおよそ1,200億ドル失われました。証拠金不足によるマージンコールが発生し、レバレッジをかけたロングポジションの約10億ドル相当が強制的にクローズ(清算)されました。わずか1時間で約9億5,200万ドルが消失しており、これは今年最大級の時間当たり清算額の急増となっています。

暗号資産への投資経験が長い投資家であれば、こうした値動きが「想定内」であることはすでにご存じでしょう。
しかし、ビットコインを直接保有しておらず、投資信託やETFを通じて投資している場合はどうでしょうか。その場合、自身が実際にどの程度のボラティリティを受け入れているのか、そしてビットコインが1日で20〜30%動くような局面であっても夜ぐっすり眠るためにどれほどの「メラトニン」[1] … Continue readingが必要になるのか、どのように把握すればよいのでしょうか。

そこで不可欠となるのがリターンベース分析です。なぜなら、ファンドの基準価額(NAV)はほぼ例外なく実態を反映するからです。この分析手法では、個別の保有ポジション情報を用いず、ファンドが公表している基準価額をもとに評価を行います。
(我々の分析では日次データを使います。ビットコインはわずか1日でも状況が大きく変わり得るためです)

我々の「メラトニン」ダイアグラムでは、縦軸に1,500本超の米国株式投資信託およびETFにおける直近のビットコインエクスポージャー推定値を示しています。これらは、Morningstarが提供する日次のファンド基準価額データを用いてMPI Stylus Proにより算出したものです。横軸には、直近250営業日を対象とした年率換算の標準偏差を表示しています。
なお「デジタル資産」カテゴリーに分類されるファンドは、エクスポージャーが明確かつ通常はほぼ100%に近いため、本分析からは除外しています。

さらに、ビットコインや、その明確な代理資産(プロキシ)であるStrategy(MSTR)などへのエクスポージャーが、すでに広く認識されており、かつ相応に大きいファンドおよびETFについては、冒頭のチャートでオレンジ色で示しています。
一方で、ビットコインへのエクスポージャーは間接的な形で存在し、必ずしも一目で把握できるとは限りません。保有明細が開示されるまでの数か月間、投資家が気付かないまま内在しているケースもあります。中には、四半期途中でこうした関連株式を保有し、報告期限前に売却してしまうファンドも存在します。
このような背景から、エクスポージャーの変化をリアルタイムに近い形で把握するためには、リターンベースのアプローチが実務上ほぼ唯一の有効な手段となる場合が多いと言えます。

我々は、インベスコのQQQ ETFを参照点として用いています。これは、ボラティリティと「ベースライン」となるビットコインエクスポージャーの双方についての基準です。QQQは、ナスダック100指数を構成する銘柄に投資するETFであり、同指数はナスダック市場に上場する金融業を除く大型株100社で構成されています。
QQQはあくまで株式のみを保有する設計であり、コモディティ、現物ビットコイン、ビットコイン先物はいずれも組み入れていません。それにもかかわらず、Stylusによる分析では、QQQが実質的に数%程度のビットコインエクスポージャーを有していることが示唆されます。これは、構成銘柄の中に、バランスシート上でビットコインを保有している企業や、暗号資産エコシステムと強く結びついている企業が含まれているためです。[2] … Continue reading

我々は、QQQを起点とした第一象限、すなわちQQQよりもビットコインエクスポージャーが高く、かつボラティリティも高い投資信託およびETFに注目しています。興味深いことに、この象限内では、両者の間にほぼ線形の関係が観察されます。すなわち、全体のボラティリティはビットコインエクスポージャーと密接に関連しているのです(例外的な外れ値が1本存在しますが)。
ビットコインへのエクスポージャーが既知のファンドやETF(冒頭のチャートでオレンジ色で示されたもの)については、この結果は驚くべきものではありません。しかし、それ以外の多くのファンドについては、こうしたエクスポージャーは一見して分かるものではなく、保有明細の確認だけで把握しようとすれば、相当な調査作業、あるいは日次ベースでの継続的なモニタリングが必要になります。

例えば、VanEckのBUZZ ETFを見てみましょう。同ETFは、BUZZ NextGen AI US Sentiment Leaders Indexに連動しており、ソーシャルメディアやオンライン上で最も強いポジティブなセンチメントを示す米国株75銘柄で構成されています。
BUZZはビットコインを直接保有していません。指数ルール上も、現物ビットコインやビットコイン先物は一切組み入れ対象外です。しかし、指数の構成方法の特性上、結果として「ビットコイン・プロキシ」となり得る株式が繰り返し組み入れられる構造になっています。

我々のメラトニンダイアグラム(2025年12月5日までのデータ)を見ると、BUZZは間接的なビットコインエクスポージャーが約18.5%と、分析対象の中でも最も高い水準の一つを示しています。また、年率換算ボラティリティは約36%に達しており、これはQQQをおよそ50%上回る水準です。

一方、ARKW ETFは、QQQやBUZZと比べても、はるかに直接的なビットコインエクスポージャーを有しています。その理由は大きく2点あります。

  1. 投資比率約5〜6%ビットコインETFを通じて、明示的にビットコインへ配分している
  2. 暗号資産関連株式への比重の大きいスリーブ(資産区分)を組み入れている
    • Coinbase(COIN):約5%
    • Robinhood(HOOD):約5%
    • Circle Internet Group(CRCL):約3%
    • Tesla(TSLA):約10%(バランスシート上でのビットコイン保有は小さいものの、ビットコインやリスクオン・センチメントとの相関が高い)

QQQやBUZZと比較すると、ARKWは「次世代インターネット」というテーマの一部として、意図的にビットコインおよび暗号資産へのエクスポージャーを組み込む設計となっています。単なる偶発的な波及(スピルオーバー)ではありません。
そのため、我々のダイアグラムにおいて、ARKWがサンプル中で最も高いビットコインエクスポージャーを示していることは自然な結果と言えます。我々の推定では、その水準はおよそ25%に達しています。なお、この推定値はARKWの日次価格データのみを用いてMPI Stylus Proが算出したものであり、一切の保有ポジション情報を使用していません

予想どおり、我々の分析では、1,500本のファンドの大半はビットコインへの有意なエクスポージャーを示していません。この意味では、メラトニンは不要と言えるでしょう。
しかしその一方で、デジタル資産を想起させる名称や、目立った関連銘柄の保有が見当たらないにもかかわらず、QQQの2〜5倍に相当するビットコインエクスポージャーを示すファンドが数十本存在しています(冒頭のチャート内の青色で示されたものです)。このような隠れたエクスポージャーは、ビットコインが急落した局面や、再び垂直的な上昇局面に入った際に、必然的にジェットコースターのような値動きをもたらすことになります。

次回、ポートフォリオの構成を検討する際には、ぜひ一度「医者」 ー すなわち、リターンベースのスタイル分析・リスク分析に相談してみてください(我々の顧客がMPI Stylus Proを用いて日々実行している分析がまさにこれに当たります)
あるいは、少なくとも自社のリスク管理チームに確認し、自分のポートフォリオが実際にどれほどのビットコイン用「メラトニン」を必要としているのかを把握しておくべきでしょう。

  • 分析対象
    Morningstarのデータを用い、日次基準価額(NAV)の履歴が250営業日以上ある米国およびグローバル株式の投資信託・ETF 1,500本超を対象とする。なお、「デジタル資産/暗号資産(Digital Assets / Crypto)」に分類されるファンドは除外した。
  • データと分析期間
    2025年12月5日までの直近250営業日における日次トータルリターンを使用。
  • 分析ツール
    MPI Stylus Proを用い、Dynamic Style Analysis(DSA)によるリターンベースのスタイル分析・リスク分析を実施し、直近のエクスポージャーを推定。
  • モデル
    各ファンドのリターンを、株式市場全体、セクター、スタイル要因に加え、ビットコイン要因(ビットコインの日次価格変動に基づく)を含むファクターセットに回帰分析。
    チャートに示した「ビットコインエクスポージャー」は、このビットコイン要因に対する推定感応度を表す。
  • ボラティリティ
    横軸のボラティリティは、同一の250営業日を対象とした日次ファンドリターンの年率換算標準偏差。
  • 留意点
    エクスポージャーは保有ポジションではなくリターンに基づく推定値である。
    そのため、運用会社が開示する配分比率と異なる場合があり、本分析は説明・参考目的であり、監督・コンプライアンス用途を意図したものではない。
    また、エクスポージャーは直近時点の推定値であり、過去250日間のボラティリティを必ずしも反映するものではない

MPIはパフォーマンスベースの分析を行っており、公開されているファンド情報以外の投資戦略のクオリティあるいはメリットに関してコメントは行いません。また当該ファンドの実際の投資戦略、ポジションあるいは保有情報を知ることを要求したり示唆するものではありません。この分析は、ファンドのリターンのみを使っており、実際の保有情報は反映しておりません。あらゆる定量分析に固有の分析と実際の保有、また/あるいはファンドによる投資決定との乖離が予想されます。本レポートは、MPIが信頼できると判断した情報源から入手した情報をもとに作成しておりますが、当該情報の正確性を保証するものではありません。情報提供を目的としたものであり、本ファンドの勧誘のために作成されたものではありません。

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脚注

脚注
1 睡眠に作用するとされる成分です。日本では医薬品として取り扱われますが、米国ではサプリメントとしてドラッグストアでも購入可能で、「不安やストレスを理由に眠れない場合などに使用するもの」を意味する表現として使われることもあります。
2 MicroStrategy/「Strategy」(MSTR):MSTRは2024年12月23日付でナスダック100指数に組み入れられました。現在、QQQにおけるMSTRの組入比率は約0.24%です。Tesla(TSLA)テスラは、バランスシート上に約11,500のビットコインを保有しています。TSLAは、QQQの上位10銘柄の一つであり、組入比率はおおよそ3〜4%となっています。