機関投資家はテールリスク保険をなぜショートするのでしょうか? それが何を意味するか解りますか?

概要

機関投資家は、大幅な分散効果と安定した「アルファ」を備えた無相関のリターンパターンを持つボラティリティ戦略に魅力を感じています。このような戦略は非常に複雑であり、デリバティブ商品を広範に使用するため、理解が困難です。しかし、先進な定量的リターンベースの分析によりアルファの源泉に関する洞察を提供し、潜在的なリスクについて投資家に警告することができます。コロナ危機の市場ボラティリティは、いくつかの著名なボラティリティ取引のヘッジファンド(マラカイトパープラスパートナーローニンキャピタルそしてアリアンツストラクチャードアルファ)の爆発をもたらしました。特にアリアンツのファンドは40億ドルを超える損失を被り、最近開示されたDOJ(Department of Justice 司法省)調査の対象となっています。我々は 定量的手法を駆使してストラクチャードアルファヘッジファンドの分析を行い、類似ファンドの潜在的なリスクを評価する方法を示します。

この記事は、コロナによる市場危機時のヘッジファンド戦略に焦点を当てたMPI定量的リサーチシリーズの続編です:リスクパリティルネッサンスRIEFインフィニティQ

テールリスク保険を売買していますか?

火災保険の概念は、火災の場合の損害賠償を保険会社に請求できることと引き換えに、定期的な保険料を支払う契約として最もよく知られています。この契約に関連するキャッシュフローは、保険会社が稀に発生する火災による多額の損害賠償請求の支払いと引き換えに毎月少額の保険料を徴収することです。同様のリターンパターンは、投資業界では、いわゆるテールリスクヘッジ戦略と呼ばれ、オプションプレミアムと引き換えに市場の下落から投資家を保護するように設計されています。大きな株式損失と一致する多額の支払いのために、そのような戦略をテールリスク保険と呼ぶことができます。 しかし、なぜ機関投資家は反対側のポジションを取り、実際にはテールリスク保険を売る(ショート)のでしょうか。彼らはそれらがどういう意味かを知っているのでしょうか? テールリスク保険の売り(ショート)は、テールリスクイベントでの株式ポートフォリオの損失をヘッジするのではなく、悪化させてしまうことになります。

テールリスク保険ファクターの構築

これがどのように機能するかを示すため、我々は、CBOE VIXテールヘッジインデックス(VXTH)からS&P 500インデックスのリターンを差し引いて、アウト・オブ・ザ・マネーのVIXオプションで構成されるテールヘッジ部分を抽出することにより、テールリスク・インデックスを構築します。下のチャートから、オプションプレミアムの支払いの安定的な「保険を徴収する」流れが、GFC(世界金融危機2008)やコロナ(2020)などの危機時の市場低迷期ために蓄積されていることがわかります。したがって、機関投資家がコアアセットを保護するために投資する合理的な戦略です。

※テールリスク・インデックス=
CBOE VIXテールヘッジインデックス(VXTH)-S&P 500インデックス

もし、誰かがそのような保証料を売る(ショートする)場合はどうなるでしょうか? それを検証するためには、テールリスク・インデックスの動きを単純に逆方向にする必要があります。以下に、このファクター(テールリスク・ショートインデックス)をS&P 500とともにプロットします。これによると、2006年3月 1)CBOE VIX Tail Hedge Indexの開始日から2008年6月までのリターンにはほとんど共通点がないように見えます。しかし実際には、S&P 500が2007年9月から2008年6月に下落し損失を被ったときには、この2つのファクターは明らかな負の相関を示していました。その後、2008年8月から10月の間には、両方のファクターが同様に著しい損失を被りました。そのため、これら2つのファクターを持つポートフォリオは、世界金融危機(GFC)中において実際の株式市場の損失以上の悪化につながりました。これは、リターンが同じ方向に動かない資産間に分散することにより、ポートフォリオのボラティリティを低減することを目標にしたポートフォリオと正反対の動きでした。

この予備知識をもって、世界金融危機(GFC)から現在に至るまでの期間でこれらの同じファクターをプロットします。 テールリスク保険を売っている(ショート)人は、2020年の初めまで非常に一貫したリターンプレミアムを受け取っていたはずです。約11年間、ファクターは65%上昇し、年率6%を記録しました。S&P 500インデックスに対してこのような安定したリターンの流れをオーバーレイすることは、多くの投資家にとって魅力的な「アルファ」として見えたでしょう。なぜなら、このファクターはポートフォリオのボラティリティにほとんどに影響を与えず大きなリターンプレミアムを生み出したからです。

しかしこの超過収益は、典型的なファイナンス教科書でのアルファを意味するものではありません。 むしろ、負に歪んだリターン分布で、まれに著しい損失が発生する傾向がある VIXオプションのアウト・オブ・ザ・マネーの売りのポートフォリオからのオプションプレミアムの流れを意味しています。11年間の一貫してプラスのリターンに関連するリスクは、2020年の2月と3月のわずか2か月で明らかになりました。 この2か月だけで、このファクターは67.9%減少し、過去11年間にもたらしたトータルリターンプレミアムを上回りました。

アリアンツのストラクチャードアルファ–ケーススタディ

コロナ危機の間の市場のボラティリティは、いくつかの著名なボラティリティ取引のヘッジファンドの爆発をもたらしました:マラカイトパープラスパートナーズローニンキャピタルアリアンツストラクチャードアルファ。アリアンツストラクチャードアルファは、最近開示されたDOJ(Department of Justice 司法省)調査の対象です。さらに、アリアンツは多くの年金基金から訴えられています。 アリアンツストラクチャードアルファ250、500、1000、および1000 Plusのファンドファミリーは、「急激な市場の低迷に対して常にヘッジされたままである」と想定されていましたが、戦略に応じて33%から70%、90%以上の大きな損失を被り、クライアント資産の合計40億ドルを失いました。市場の損失に続いて、アリアンツはヘッジファンドを清算し、2020年12月には、アリアンツGIストラクチャードリターンファンドインスティテューショナルクラス(AZIIX)のミューチュアルファンドも清算しました。

ストラクチャードアルファの損失の原因についての洞察を深めるために、MPIスタイラスプロ動的スタイル分析(DSA)を利用します。 他のリターンベースの定量的手法と同様に、DSAは市場ファクターのリターンに対するファンドのリターンのみを使用して、ファンドの実際のリターンを精緻に追跡するファクターポートフォリオを構築します。ファンドが非線形金融商品に投資されたことを考えると、市場ファクターに加えて「投資戦略ファクター」も使用します。これは、直近に分析した別のボラティリティ戦略をもつInfinityQファンドでも同様です。CBOE(Chicago Board Options Exchange:シカゴ・オプション取引所)には多くのオプションとボラティリティベースの戦略インデックスがあり、私たちのシステムでは、ストラクチャードアルファのリターンを説明するときに最も予測力があるものとしてVIXテールヘッジインデックスを特定しました。

以下のチャートは、S&P 500インデックスと前述のテールリスク・ファクター(CBOE VIXテールヘージインデックスからS&P 500を差し引いたもの)の2つのファクターのみを使用した、現在清算されたミューチュアルファンドでアリアンツGIストラクチャードリターンファンドインスティテューショナルクラス(AZIIX)のDSAによる分析結果を示しています。 これは、ファンドがカバーされていないテールリスク保険を売ったかのような動きを示しています。テールリスク保険へのエクスポージャは一貫して40%ショート、市場へのエクスポージャは10%ロングです。 このファンドや同じシリーズのファンドに投資している投資家は、安定したプレミアム「アルファ」と引き換えに、テクニカルにテールリスク保険を売っていたことと同様であることは容易に理解できます。

2つのファクターのポートフォリオ(青い線)のパフォーマンスは、2020年の第1四半期の劇的な損失を含め、ファンドのリターンを非常によくトラックしています。ファンドのリターンは、大きな株式損失の期間以外では一貫してプラスのリターンを生み出していたテールリスクファクターへのマイナス・エクスポージャによるものです。これは、ファンドがとっている大部分のリスクとして、2020年以前は非常に一貫していました。

コロナ危機が世界経済にどの程度の影響を与えるかを市場が認識し始めたとき、世界株式市場は2020年の2月と3月に著しく急落しCBOE VIX指数は60台に達し、その結果オプションポートフォリオの崩壊を招きました。 我々がアリアンツストラクチャードアルファヘッジファンドをさらに分析したところ、ミューチュアルファンド版の2〜3倍のテールリスク・ファクターへのエクスポージャが示され、危機時にははるかに大きな損失を被るにもかかわらず、より高いプレミアムを得ていました。

結論

ハリー・マーコウィッツはかつて、「分散投資は金融における唯一の方法(無償ランチ)である」と述べました。これは、期待リターンを犠牲にすることなくポートフォリオのリスクを下げる可能性があるためです。 アルファは、投資家が渇望する、期待した無償ランチの別バージョンのようです。一見同じリスク量に対してはるかに高いリターンを期待しています。しかし、そのようなランチをとる前に、食べ物がおいしいことと、レジ係が請求書を持ってドアであなたを待っていないことを確認するのが賢明です。 アルファは単純なレバレッジ(その40%のリターンがお好み? まずはリスクを理解してからね!)、巧妙なベータ(ブリッジウォーター・ピュア・アルファ)、潜在的な詐欺(マドフ事件の調査レポート)、または「手動の価格調整」などさまざまな形態をとることができ、クオンツツールでその「アルファ」を解読することができます。ストラクチャードアルファの場合、そのアルファは、市場暴落保険の売りからの魅力的な安定したプレミアムの流れによって合理的に説明できます。

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脚注   [ + ]

1. CBOE VIX Tail Hedge Indexの開始日